平成１４年８月２日〜同年８月４日

今年の夏、風鈴が付いた吊り忍草を買った。風鈴は透明な響きを発する。しかしどこか儚い音だ。

長岡で３年、暮らした。長岡が空襲で焼けた八月上旬、信濃川岸で花火大会が開かれる。三尺玉の大花火は有名。だが花火は儚い。

好きで忘れられないのに、忘れたような顔をして結婚する女性もいる。恋は花火のようなもの。

そのような女性を母として生まれた子らは、宮崎アニメ映画のトトロに会うようなロマンティックな子に育つだろう。

大江山の鬼も空想の産物。ロシヤからの漂流者という説がある。源頼光等に退治されるが、この鬼たちも郷里を思い出して泣 いたこともあろう。酒呑童子物語については永井龍男ほか訳・お伽草子・ちくま文庫１７６頁以下参照。露丸に「豆うたぬ夜は何となく鬼」という句がある。中村俊定。萩原恭男校注・芭蕉連句集・岩波文庫１０９頁。

ロシヤ出身だとすれば・・・

宝ケ池公園にシベリヤ抑留死没者鎮魂碑がある。アキツ（蜻蛉）が盛んに飛んでいる。

戦争中、白木の小箱に入った戦死者の遺骨を何回も静かに迎えた。

その反対に、出征のときは賑やかだったが。

厳寒の地で悪戦苦闘

戦後しばらく、舞鶴港は復員の港となり、岸壁の母物語が生まれた。

不運な者は花と散った。

帰国してみると、母が亡くなっていた、というひともいる。

春、渡り鳥が帰って行くが、その多くはシベリヤを目指している。ぼーっとそれを見送る。

若い頃、ぼーっとしていると、いつも、これでいいか、と思ってしまう。何をする当てなくてもだ。

帰省すると、よく泳ぎに行き、海の中で疲れると、背泳ぎした。

泳ぎに行き帰りする田圃の畦の溝で、子鮒を網ですくい、家の池に入れた。鮒は母の大事な金魚の尻尾を噛むので、母に嫌われ、僕がいなくなると、鮒はみな、川に返された。当時、たんぼ道では一歩ごとに蛇が出た。農薬で蛇の餌の蛙が死んでから、蛇は一匹もいなくなった。蛇は夏の季語。

少し大きな畦川では、餌を流すと鮒がよく釣れた。台所（厨）の中から、人が僕の釣りをみて笑っていた。田舎では、そんな詰まらぬことをする暇人はいなかったのだ。

太公望は中国周代の賢人。渭水で釣りをしていて周の文王に見出された。彼ほどの人物ではないが、釣り好きは、心の底でほんの少し、太公望を自認している。

太公望でも住んでいそうな一軒家。

遠出の賢人が深夜帰宅する足下を月が照らす。

しかし、その道のまわりは、ぼうぼうたる芒原。

さすがの賢人も、つい急ぎ足になってしまう。昔は深夜でも、辻に夜鷹蕎麦が立っていた。

さっき、妖怪に会った、と夜鷹蕎麦の主に訴えると、主が、こんな顔か、とのっぺら坊の顔を突き出す、という咄がある。

戦時中の横山泰三の漫画「進めフクチャン」に、少年フクチャンがお化けの面をかぶって友達を脅かしたら、その友達もお化けの面をかぶっていたので、二人共、ひっくりかえる、というのがあった。

少年フクチャンは角帽をかぶっていた。今、角帽をかぶるのは大学の応援団員だけ。

昔の高校生は黒いマントを着て、高下駄で都大路を歩いていた。

大路とはいえない、京極通りの北端にある緩やかな短いたらたら坂、丁稚羊羹を売っているところだ。何度、行き来しただろう。

暗い冬が行き、春、桜の花をみると、何故かそわそわする、それが若者。

花の命は七日といわれるが、それよりも短い恋もある。

最後は疎水に合流する白川の花、それまでに消えてしまう。

葉桜のあとの黒い桜の実を疎水に投げてみる。

夏休み、帰省の列車は朝早く駅に着き、家の戸を叩いて母を起こす。

せっかく帰省してもすることのない田舎、すぐ飽きる。

解説不要。

解説不要。